乳がんについて

乳がんについて

乳がんについて乳がんは発症数や死亡者数が増加傾向にあります。厚生労働省の調査では、2013年に乳がんで亡くなった方は1958年の乳がんで亡くなった方の約8倍の13,148人に増えていて、さらに2018年には14,285人と1,000人以上増加しています。女性の生涯を通じた乳がん発症率は11人に1人であり、がんによる死亡原因でも30~64歳の女性では乳がんが1位です。乳がん発症が増加しはじめるのは30代で、罹患率のピークは40代後半から50代前半です。ただし、若年層、高齢者の発症も珍しいことではなく、早期発見のためには年齢にかかわらず乳がん検診を受けることが重要です。
乳がんは早期発見と適切な治療によって、他のがんに比べて治しやすいとされています。このことから、どの年代の女性であっても、乳がんの早期発見のために定期的な検診とセルフチェックが重要です。

女性ホルモンが深く関与する乳がん

女性ホルモンであるエストロゲンは、乳がんの発症やがん細胞増殖に深く関与していることがわかっています。日本で乳がん発症数が増加しているのは、乳腺がエストロゲンにさらされる期間が長くなっていることが要因の1つと考えられています。エストロゲンは卵巣から分泌されます。卵巣からのエストロゲン分泌量は40歳を超えた頃から次第に減少していきますが、乳房組織にエストロゲン受容体が増加するため、分泌量の減少は発症率にそれほど大きな影響を与えません。また、乳腺は加齢によって萎縮しますが、閉経後には脂肪細胞によってエストロゲンが作られてしまうことから、閉経後も乳がん発症のリスクがあります。そして、脂肪が多い食事はエストロゲンの分泌量を増やします。こうしたことから、年齢にかかわらず乳がん発症のリスクがあります。

乳腺と乳がん

乳房は左右一対の臓器で、皮膚とその下の脂肪組織・乳腺組織でできています。乳がんは乳腺に発生する悪性腫瘍です。乳腺には、母乳を作る小葉、母乳を乳頭まで運ぶ乳管があります。この小葉や乳管の細胞ががん化して増殖したものが乳がんです。がんが小葉や乳管にとどまっている状態が非浸潤性乳がん、進行して周囲の正常組織に広がった状態が浸潤性乳がんです。

早期発見に有効なセルフチェック

早期発見に有効なセルフチェックしこりは乳がんの中でも早期に現れやすい自覚症状です。しこり以外の自覚症状は乳がんが進行してから現れるため、検診だけでなく正しい方法で行うしこり発見のためのセルフチェックが早期発見に大きく役立ちます。
検診ではしこり以外の早期乳がんの所見を得られますし、セルフチェックではわかりにくいしこりの発見も可能です。また、次の検診までの間に行ったセルフチェックで小さなしこりを見つけて早期乳がん発見につながるケースもあります。
乳がんは早期発見と適切な治療で治しやすいとされていますが、しこりが大きくなったり転移を起こしたりすると治療を受けても再発しやすくなってしまいます。セルフチェックのやり方をしっかり覚えて、しこりが小さいうちに発見できるようにしましょう。

乳がんの病期分類 (TMN分類)

しこりの大きさ(T)、リンパ節への転移(N)、遠隔臓器への転移(M)によって分けるTMN分類が国際的にも用いられています。TMN分類では乳がんを、0期、I期、Ⅱ期(ⅡA、ⅡB)、Ⅲ期(ⅢA、ⅢB、ⅢC)、IV期に分けています。

病期とその状況

0期 非浸潤性乳がん
I期 2cm以下のがんで、リンパ節転移なし
ⅡA期 2cm以下のがんで、わきの下のリンパ節転移あり
2~5cm以下のがんで、リンパ節転移なし
ⅡB期 2~5cmのがんで、わきの下のリンパ節転移あり
5cmを超えるがんで、リンパ節転移なし
ⅢA期 5cm以下のがんで、わきの下のリンパ節転移が強い(周囲に固定して動かない)、またはわきの下のリンパ節転移はなく胸骨内側のリンパ節に転移あり
5㎝以上のがんで、わきの下のリンパ節転移あり、または胸骨内側リンパ節転移あり
ⅢB期 がんの大きさやリンパ節転移の有無を問わず、しこりが胸壁に固定されている、または皮膚に浮腫や潰瘍を形成している状態で、しこりのない炎症性乳がんも含まれる
ⅢC期 しこりの大きさは問わず、わきの下のリンパ節と胸骨内側のリンパ節の両方に転移がある、あるいは鎖骨上下のリンパ節に転移がある
Ⅳ期 しこりの大きさやリンパ節転移の有無や広がりにかかわらず、他の離れた臓器への遠隔転移がある

早期発見・治療で乳がんは治せる可能性が高まります

非浸潤性乳がんはがん細胞が乳管や小葉にとどまっている状態で、大きさや広がりに関わらず全てステージ0です。非浸潤性乳がんは、ほとんどが手術で治すことができます。こうした超早期の乳がんは、大半が検診のマンモグラフィなどによって発見されています。セルフチェックでは、2cm以下のしこりでリンパ節転移がないⅠ期の乳がんを発見することができます。Ⅰ期の乳がんは、治療を受けてから10年後の生存率が約95%とされています。乳がんを進行させてしまうと治療後の生存率が下がり、再発リスクも高くなります。早期発見のために、定期的な乳がん検診を受け、セルフチェックを心がけて少しでも「おかしい」と思ったら乳腺クリニックを受診してください。

こんな症状はありませんか?

乳がんの代表的な症状には「しこり」があります。ただし、乳がんではしこり以外にも乳房にちょっとした変化を起こすことがあります。乳房の皮膚を観察して、えくぼのようなくぼみ、引きつれ、色の変化に気付いたらできるだけ早く乳腺クリニックを受診してください。
また、炎症性乳がんや乳がんに乳腺炎が合併している場合には、痛みが生じることがあります。他にも乳頭に生じる乳がんでは、分泌液、ただれ、変形などを起こすことがあります。

  • 乳房にしこりがある
  • 乳房の皮膚の変化(くぼみ・引きつれ・色の変化)
  • 乳頭が陥没してきた
  • 乳頭に湿疹やびらん(ただれ)がある
  • 乳頭から分泌液が出る

乳房にしこりが現れる乳がん以外の病気

乳房にしこりが現れた場合、その1~2割が乳がん、残りの8~9割は良性の腫瘍と診断されます。こうしたしこりは乳腺専門外来で適切な検査を受けることではじめて正確に診断されます。触れた際の感触の違いといった特徴はありますが、傾向でしかありません。乳がんかどうかを判断するためには、乳腺専門医の受診が不可欠です。乳房にしこりを見つけたら、できるだけ早く乳腺クリニックを受診しましょう。

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乳腺線維腺腫

乳腺の良性疾患では、この乳腺線維腺腫の発症頻度が最も高いとされています。
発症は10~30代と比較的若い世代に多い傾向があります。
しこりは、大きさが小豆から鶏卵程度までと幅広く、形状は平たくて丸いことが多く、
クリクリした感触で触れると動き、複数のしこりができることもあります。
悪性腫瘍ではないことを確認して小さい場合は経過観察し、サイズが大きくなる場合は治療を検討します。

乳腺症

乳腺症は30~40代に多く、疾患というより乳腺の変化だと考えられています。
女性ホルモンのバランスが変わって乳腺細胞がさまざまな変化を起こしているため、
月経前に乳房の張りや痛みを起こすケースがあります。
しこりの感触はコリコリとしていて、境界があいまいなことが多いとされています。

乳腺のう胞

乳腺症による変化として現れることがよくあります。
のう胞は袋状の組織で、乳腺にできたのう胞に分泌液がたまってしこりとして感じるのが乳腺のう胞です。
のう胞が大きくなると周囲を圧迫したり、
のう胞内に感染を起こしたりすることで痛みを生じるケースがあります。

乳腺炎

炎症性の乳腺疾患で、授乳期の発症が多くなっています。
母乳が詰まったり、細菌感染により乳腺に炎症が起きます。
乳房の腫れ、赤み、熱感、痛み、しこり、発熱、倦怠感などを起こします。

乳輪下膿瘍

細菌感染から乳輪下に膿がたまることがあります。
陥没乳頭や喫煙者に起こりやすく、治りにくい乳腺炎で稀に手術することもあります

乳管内乳頭腫

母乳の通り道である乳管に生じるポリープのようなもので、
30代後半から50代の発症が多い傾向があります。
主な症状には、乳頭からの分泌液があり、透明なもの、
黄色っぽいもの、血液が混じっているものなどがあります。
また、乳頭周辺のしこりとして感じるケースもあります。

葉状腫瘍

良性と悪性があって、幅広い年代で発症します。
増殖が比較的早く、急速に巨大化することがあるため切除が必要です。
悪性の場合、転移を起こすこともあります。

乳がんリスクについて

乳がんは、エストロゲンにさらされている期間が長くなると発症しやすくなるとされています。さまざまな乳がんのリスクファクターは統計学的な調査によってわかってきています。主なリスクファクターは下記の通りです。

  • 出産経験がない
  • 初潮が早い・閉経が遅い
  • 肥満(特に閉経後の肥満)
  • 乳がんを発症した血縁者がいる
  • 長期間、ホルモン補充療法を行っている
  • 乳がんになったことがある
  • 喫煙経験がある
  • 習慣的に飲酒されている

こうしたリスクファクターがあると将来必ず乳がんになるというわけではありませんが、早期発見のための定期的な乳がん検診やセルフチェックの重要性が高くなります。

乳腺ドック(自費での乳がん検診)で早期発見

乳腺ドック(自費での乳がん検診)で早期発見ほとんどの乳がんは早期発見と適切な治療で治すことができます。また、治療後に乳房をなるべくそのままの形で残すためにも早期発見は重要です。さらに、早期発見できれば、抗がん剤治療が不要になることも多く、お体への負担が少ない低侵襲の手術も可能になります。低侵襲の手術は回復も早く、短期間で日常に復帰できます。ご自分だけでなく、大切なご家族のためにも、定期的なマンモグラフィによる乳がん検診と正しいセルフチェックによる自己検診を習慣的に行うことで早期発見につなげましょう。

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